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リ・ポジショニング戦略 超実践マニュアル

目次

—ブランド再構築の戦略と戦術—

序文

このマニュアルは、ジャック・トラウト著『リ・ポジショニング戦略』を基に、市場環境の変化や競争の激化に直面した企業が、既存のブランドやサービスを再定義し、新たな価値を創出するためのステップバイステップガイドです。理論だけでなく、実際の事例と具体的な実行手順を豊富に盛り込んでいます。

「市場の消費者の心を変えるのではなく、消費者の心の中の認識を少しずつ調整していくのがリ・ポジショニングである」
— ジャック・トラウト

目次

  1. リ・ポジショニングの必要性診断
  2. 市場環境変化の精密分析
  3. 競合ポジション分析と対抗戦略
  4. 顧客認識調査と心理分析
  5. リ・ポジショニングの20の戦術と実践例
  6. 組織内変革の実行プロセス
  7. コミュニケーション戦略の再構築
  8. 結果測定と軌道修正の方法
  9. 事例研究:10の成功例と5の失敗例

1. リ・ポジショニングの必要性診断

リ・ポジショニングが必要なサイン

以下のうち3つ以上該当する場合、リ・ポジショニングを真剣に検討すべきです:

  1. 売上の継続的な減少 (3四半期以上)
  2. 市場シェアの低下 (前年比5%以上)
  3. 顧客ロイヤルティの低下 (NPS値10ポイント以上の下落)
  4. 競合との差別化が薄れている
  5. 業界構造の変化 (新技術、新規参入者など)
  6. 顧客層の変化 (高齢化、新世代の台頭など)
  7. 製品ライフサイクルの成熟期・衰退期への移行
  8. 企業の合併・買収後のブランド統合の必要性

【実践ツール1】リ・ポジショニング必要性スコアカード

下記の質問に0-3点で回答(0=全く当てはまらない、3=完全に当てはまる)

診断項目スコア根拠データ
1. 売上は過去3四半期連続で下降傾向にある
2. 市場シェアが1年前と比べて下落している
3. 主要競合が新たなポジショニングを展開し始めた
4. 業界の技術革新や構造変化が起きている
5. 顧客層の嗜好や行動パターンが変化している
6. 従来の差別化ポイントが競合にも取り入れられている
7. 顧客調査で「特徴がない」という評価が増えている
8. 同じマーケティング手法の効果が薄れている
9. メディアや業界アナリストの評価が下がっている
10. 自社ブランドの認知度や想起率が低下している

スコア合計:

  • 0-10点:現状維持で様子見
  • 11-20点:部分的なブランド修正を検討
  • 21-30点:本格的なリ・ポジショニングが必要

実際の診断例:老舗百貨店Aの場合

診断項目スコア根拠データ
1. 売上は過去3四半期連続で下降傾向にある3前年比-12%、-15%、-18%
2. 市場シェアが1年前と比べて下落している3市場シェア8.5%→6.2%
3. 主要競合が新たなポジショニングを展開し始めた2競合B社が「デジタルファースト」戦略を展開
4. 業界の技術革新や構造変化が起きている3ECの台頭、実店舗離れの加速
5. 顧客層の嗜好や行動パターンが変化している3主要顧客の高齢化、若年層の取込み失敗
6. 従来の差別化ポイントが競合にも取り入れられている2接客サービスの模倣、類似PB商品の登場
7. 顧客調査で「特徴がない」という評価が増えている2「独自性」評価が65%→38%に低下
8. 同じマーケティング手法の効果が薄れている3定期催事の集客減少(-30%)、DM反応率低下
9. メディアや業界アナリストの評価が下がっている1専門誌評価は維持も、SNS言及は減少
10. 自社ブランドの認知度や想起率が低下している2想起率調査:1位→3位に後退

スコア合計:24点
診断結果:本格的なリ・ポジショニングが必要

リ・ポジショニングを検討すべきタイミングの見極め方

  1. 予防的リ・ポジショニング
  • 業績は好調だが、市場環境の大きな変化が予測される時
  • 例:ネスレ日本のコーヒー事業(缶コーヒーからカプセル式への移行)
  1. 修復的リ・ポジショニング
  • 業績不振が明らかになった時
  • 例:アップル(スティーブ・ジョブズ復帰時の「Think Different」キャンペーン)
  1. 戦略的リ・ポジショニング
  • 新たな成長機会を捉えるため
  • 例:アマゾン(書籍販売から総合ECへ、さらにクラウドサービスへ)

アクションポイント:

  • 診断結果を経営幹部チームと共有し、危機感を醸成する
  • 次のステップへの予算と人材を確保する
  • 外部の専門家やコンサルタントの活用を検討する

2. 市場環境変化の精密分析

STEEP分析による環境変化の特定

市場環境の変化を以下5つの視点で総合的に分析します:

1. 社会的変化 (Social)

  • 人口動態:高齢化、世帯構成変化など
  • 価値観変化:エシカル消費、ミニマリズムなど
  • ライフスタイル変化:リモートワーク、ワークライフバランスなど

2. 技術的変化 (Technological)

  • 技術革新:AI、5G、IoTなど
  • デジタル化:スマートフォン普及、キャッシュレスなど
  • 新素材・新製法:3Dプリンティング、サステナブル素材など

3. 経済的変化 (Economic)

  • 景気動向:不況、インフレなど
  • 所得格差:二極化、ミドルクラスの変化など
  • 国際経済:グローバリゼーション、保護主義など

4. 環境的変化 (Environmental)

  • 気候変動:温暖化対策、災害の増加など
  • 環境規制:プラスチック規制、CO2削減義務など
  • 資源制約:原材料不足、エネルギー問題など

5. 政治・法的変化 (Political/Legal)

  • 規制変更:個人情報保護法、労働法改正など
  • 政権交代:政策変更、補助金制度など
  • 国際関係:貿易摩擦、地政学的リスクなど

【実践ツール2】市場変化影響度マップ

各変化要因について「影響の大きさ」と「差し迫り度」を評価し、優先度を判断します。

変化要因影響度(1-5)差し迫り度(1-5)優先度(影響×差し迫り)対応戦略メモ

実際の分析例:化粧品メーカーBの場合

変化要因影響度(1-5)差し迫り度(1-5)優先度対応戦略メモ
Z世代の美容価値観変化5525ナチュラルメイク、マルチユース訴求へ
サステナビリティ要求の高まり4416パッケージ刷新、原材料見直し
SNS中心の情報収集5525インフルエンサーマーケティング強化
D2C(直販)モデルの台頭3412自社ECサイト機能強化
中国市場の規制変化4312現地パートナー関係強化
AR/VR技術の美容領域活用326中期開発テーマとして検討

分析結果のポイント:

  1. Z世代への対応とSNSマーケティングが最優先課題
  2. サステナビリティを軸にしたブランド刷新が必要
  3. オンライン直販強化が中期課題
  4. バーチャル試着などの新技術は次期テーマ

業界構造変化分析(ファイブフォース+)

ポーターの5つの力に「デジタル破壊力」を加えた6つの視点で業界構造変化を分析します:

  1. 新規参入の脅威: 参入障壁の変化
  2. 買い手の交渉力: 顧客の選択肢と情報力
  3. 売り手の交渉力: サプライヤーの力関係
  4. 代替品の脅威: 新たな代替手段の出現
  5. 競争環境: 競合間の競争激化
  6. デジタル破壊力: デジタル技術による業界構造変革

実際の分析例:地方銀行Cの場合

  1. 新規参入の脅威: ★★★★☆
  • フィンテック企業の決済サービス参入
  • スマホ銀行の増加
  • 大手IT企業の金融サービス展開
  1. 買い手の交渉力: ★★★★★
  • 顧客のデジタルリテラシー向上
  • 金利比較サイトの普及
  • 銀行切り替えコスト低下
  1. 売り手の交渉力: ★☆☆☆☆
  • システムベンダー依存度の高さ
  • 人材市場での競争力低下
  1. 代替品の脅威: ★★★★☆
  • 暗号資産・デジタル通貨の台頭
  • P2Pレンディングサービスの普及
  • 非金融プラットフォームの金融サービス化
  1. 競争環境: ★★★☆☆
  • メガバンクのデジタル化攻勢
  • 地域密着型サービスでの差別化低下
  • 低金利環境による競争激化
  1. デジタル破壊力: ★★★★★
  • キャッシュレス決済の急速な普及
  • AI審査による融資の自動化
  • ブロックチェーン技術の金融適用

リ・ポジショニングへの示唆:

  • 「地域密着」だけでは差別化できない時代に
  • デジタルと人的サービスを組み合わせた新たな価値提供が必要
  • 「安心・安全」と「使いやすさ」を両立する新ポジションの構築が急務

アクションポイント:

  • 環境変化分析の結果を元に、将来シナリオを2-3パターン作成する
  • 各シナリオでの自社ポジションを検討する
  • 最も可能性の高いシナリオに基づき、リ・ポジショニング方向性を検討する

3. 競合ポジション分析と対抗戦略

競合のポジショニング変化トラッキング

主要競合の過去3-5年のポジショニング変化を追跡し、動向と成功度を分析します。

【実践ツール3】競合ポジショニング変遷マップ

競合名過去のポジション現在のポジション変化の理由成功度評価示唆

実際の分析例:プレミアムビール市場の場合

競合名過去のポジション現在のポジション変化の理由成功度評価示唆
サッポロ「黒ラベル」伝統・本物志向「クラフトビール」多様性・個性クラフトビールブーム対応★★★☆☆
新規顧客獲得に成功もコア顧客の一部離脱
伝統とクラフト感の両立が課題
アサヒ「辛口」クリアな飲み口「プレミアム感」高級・贅沢低価格化競争からの脱却★★★★☆
価格帯上昇に成功
高級路線でも独自性の明確化が必要
キリン「一番搾り」ものづくり・品質「健康」機能性・低アルコール健康志向・ノンアル需要対応★★★★★
新市場創造に成功
従来ユーザーと新規層の両方を維持
サントリー「ザ・プレミアム」贅沢・特別「クラフトマンシップ」こだわり・職人海外展開強化・差別化★★★☆☆
一部市場で成功も認知拡大に苦戦
日本らしさと職人技の融合が差別化点

リ・ポジショニングと競合対応の4大戦略

1. フランキング戦略(側面攻撃)

競合の弱みや未対応領域を攻めるアプローチ

実例:キリンのノンアルコールビール戦略

  • 背景: アルコール市場縮小と健康志向の高まり
  • 戦略: 「ノンアルコール」という新カテゴリーでの一番乗り
  • 実行: 「零ICHI」の投入とテイスト改良の継続
  • 成果: ノンアル市場でのリーディングポジション確立

実行のポイント:

  • 競合の未対応領域を徹底調査
  • 十分な市場潜在力があるか検証
  • 先行者優位を築くための素早い展開
  • 参入後も継続的な製品改良で優位性維持

2. エンサークルメント戦略(包囲攻撃)

複数の差別化ポイントで競合を包囲するアプローチ

実例:ユニクロの「LifeWear」コンセプト

  • 背景: 単なる「安価なカジュアルウェア」からの脱却
  • 戦略: 品質・機能性・デザイン・価格の全方位での価値提供
  • 実行: ヒートテック、エアリズムなど機能性シリーズの展開と有名デザイナーコラボ
  • 成果: 低価格SPA以上の存在としてのグローバルポジション確立

実行のポイント:

  • 複数の差別化軸を明確に設定
  • 各軸での具体的な強みを実証できるよう整備
  • 一貫したメッセージで複数の強みを統合
  • 総合的な価値提案として伝える

3. バイパス戦略(迂回攻撃)

全く新しい市場定義で競争領域を変えるアプローチ

実例:日産自動車の電気自動車戦略

  • 背景: エコカー市場でトヨタのハイブリッドに対抗困難
  • 戦略: ハイブリッドではなく完全EVへの特化
  • 実行: 「リーフ」の早期市場投入と充電インフラ整備
  • 成果: EV市場での先行ポジション確立

実行のポイント:

  • 既存の競争軸とは異なる新たな価値軸を定義
  • 将来性のある新市場での一番乗りを目指す
  • 新たな評価基準を市場に浸透させる啓蒙活動
  • 長期的視点での継続投資

4. ゲリラ戦略(選択と集中)

特定のニッチ市場に集中するアプローチ

実例:スノーピークのアウトドア戦略

  • 背景: 大手アウトドアブランドとの正面対決回避
  • 戦略: 「高級志向の日本的キャンプスタイル」に特化
  • 実行: チタン製品など高級素材へのこだわりとキャンプフィールド展開
  • 成果: プレミアムアウトドアライフスタイルブランドとしての確固たる地位

実行のポイント:

  • ニッチ市場の選定と深い顧客理解
  • そのニッチでの圧倒的な専門性と商品力
  • コアファンとの強い関係構築
  • 無理な市場拡大を避け、ブランド価値を維持

【実践ツール4】競合対応戦略選定マトリクス

自社の市場地位と強みに基づいて最適な戦略を選択するためのフレームワークです。

市場リーダー市場チャレンジャー市場フォロワーニッチャー
差別化可能性:高包囲戦略
(全方位防衛)
フランキング戦略
(側面攻撃)
バイパス戦略
(新市場創造)
ゲリラ戦略
(ニッチ特化)
差別化可能性:中防御的リポジショニング対抗的リポジショニング適応的リポジショニング特化型リポジショニング
差別化可能性:低コスト優位戦略協調戦略
(M&A、提携)
模倣改良戦略撤退・縮小戦略

実例:スマートフォン市場の競合対応戦略

アップル(市場リーダー/差別化:高)

  • 戦略: 包囲戦略(全方位防衛)
  • 具体策: ハードウェア(iPhone)、ソフトウェア(iOS)、サービス(Apple Music、Apple TV+)、エコシステム(App Store)の総合的価値提供

サムスン(市場チャレンジャー/差別化:高)

  • 戦略: フランキング戦略(側面攻撃)
  • 具体策: フォルダブルスマートフォンなど革新的フォームファクターでの差別化

シャオミ(市場フォロワー/差別化:中)

  • 戦略: 適応的リポジショニング
  • 具体策: コストパフォーマンスだけでなく、ハイエンド機種の投入による段階的なブランド向上

ソニー(ニッチャー/差別化:高)

  • 戦略: ゲリラ戦略(ニッチ特化)
  • 具体策: カメラ性能特化とクリエイター向け機能での差別化

アクションポイント:

  • 競合分析に基づき自社の最適な対応戦略を選択する
  • 戦略に沿ったリ・ポジショニング方向性の仮説を立てる
  • 選択した戦略を実行するための具体的なアクションプランを策定する

4. 顧客認識調査と心理分析

消費者の頭の中を解読する4つの調査手法

1. ブランド認知マッピング

消費者がブランドについて持つイメージやポジションを視覚化する調査

調査設計例:

  1. 主要ブランド10社を対象に設定
  2. 20の評価項目(品質、価格、信頼性など)でのブランド評価
  3. 因子分析により重要な2-3軸を特定
  4. 各ブランドを2次元マップ上に配置

実例:コンビニエンスストアの認知マップ

  • X軸:利便性(低-高)
  • Y軸:価格イメージ(安い-高い)
  • セブン-イレブン:高利便性/やや高価格
  • ファミリーマート:中程度の利便性/中程度の価格
  • ローソン:やや高い利便性/やや高価格
  • ミニストップ:中程度の利便性/やや安い価格
  • デイリーヤマザキ:低い利便性/中程度の価格

分析ポイント:

  • 自社が望む位置と実際の位置のギャップを特定
  • 空白ポジションの機会を見極める
  • 競合との近接度を評価

2. ブランドアソシエーション調査

特定のブランドから連想されるイメージ、感情、属性を探る調査

調査設計例:

  1. 自社ブランドと主要競合3社を対象
  2. 各ブランドについて「思いつく言葉を5つ挙げる」調査
  3. 想起された言葉の頻度分析とクラスター分析
  4. 各ブランドの連想ネットワーク図を作成

実例:高級腕時計ブランドのアソシエーション

  • ロレックス:成功、地位、信頼性、耐久性、投資価値
  • オメガ:宇宙、スポーツ、技術革新、映画、正確さ
  • タグ・ホイヤー:レーシング、スポーティ、精密、男性的、モダン
  • IWC:洗練、パイロット、職人技、控えめな豪華さ、伝統

分析ポイント:

  • 自社ブランドの核となる連想を特定
  • ポジティブ・ネガティブ連想のバランスを確認
  • 競合との連想の重複度を分析

3. カスタマージャーニーマッピング

顧客の購買前から購買後までの行動と感情を可視化する調査

調査設計例:

  1. ターゲット顧客層10-15名の行動観察とインタビュー
  2. 購買プロセスの各段階での行動・思考・感情を記録
  3. タッチポイントごとの満足度・重要度評価
  4. 顧客行動の時系列マップ化

実例:新築住宅購入のカスタマージャーニー

  1. 認識段階:住宅情報サイト閲覧、SNS住宅アカウント
  • 感情:わくわく、不安
  • 課題:情報過多による混乱
  1. 検討段階:モデルハウス見学、ハウスメーカー比較
  • 感情:期待、困惑
  • 課題:各社の違いがわかりにくい
  1. 決断段階:価格交渉、プラン確定
  • 感情:緊張、決断への不安
  • 課題:専門用語理解の難しさ
  1. 購入後段階:竣工、入居、アフターサポート
  • 感情:達成感、想定外の問題への戸惑い
  • 課題:アフターサポートの対応速度

分析ポイント:

  • 顧客の「痛点」と「歓喜点」を特定
  • 競合より劣るタッチポイントを明確化
  • リ・ポジショニングで強化すべき体験要素を特定

4. ブランドスイッチング分析

顧客がブランドを切り替える理由と状況を明らかにする調査

調査設計例:

  1. 過去1年間にブランドを切り替えた顧客100名への調査
  2. 切り替え前のブランド、切り替え後のブランド、理由を質問
  3. スイッチングの状況や契機となった出来事を調査
  4. ブランド間の流出・流入パターンを可視化

実例:スマートフォンブランドのスイッチング分析

  • iPhone→Android
  • 主な理由:価格、カスタマイズ性、多様な選択肢
  • 契機:機種変更時期、価格上昇、特定機能への不満
  • Android→iPhone
  • 主な理由:使いやすさ、エコシステム統合、SNS映え
  • 契機:友人・家族のiPhone使用、不具合経験、ステータス向上願望

分析ポイント:

  • 顧客流出の主要因を特定
  • 競合からの顧客獲得機会を把握
  • ブランド忠誠度を高める要因を発見

【実践ツール5】現実認識ギャップ分析シート

顧客と企業の認識ギャップを可視化し、リ・ポジショニングの方向性を導くツールです。

項目企業の認識顧客の認識ギャップ原因分析リ・ポジショニング示唆
主な強み
弱み
競合との違い
ブランド価値
主要顧客層

実際の分析例:大手証券会社Dの場合

項目企業の認識顧客の認識ギャップ原因分析リ・ポジショニング示唆
主な強みリサーチ能力と投資助言の質伝統と安全性★★★情報発信が専門的すぎて価値が伝わっていない高度な専門性を分かりやすく伝える工夫が必要
弱みデジタル体験の遅れ手数料の高さ★★コスト構造に対する説明不足「価値に見合った」料金体系の再構築と説明強化
競合との違い総合金融サービスの幅広さ特に大きな違いを感じない★★★★サービス差別化の訴求不足特定の強みに焦点を当てた差別化戦略
ブランド価値卓越した投資知見堅実だが古い印象★★★ブランドイメージ刷新の遅れ伝統×革新の新たなブランドストーリー構築
主要顧客層資産形成期の30-40代資産運用期の50-60代★★★★若年層向けコミュニケーション不足デジタルとリアルを組み合わせた新サービス体験

分析結果のポイント:

  1. 企業が考える「強み」が顧客に正しく伝わっていない
  2. 顧客は価格に対する価値を感じていない
  3. 競合との差別化が顧客に認識されていない
  4. ターゲット顧客層とのズレが大きい

顧客心理の深層分析:5つの購買動機と影響要因

顧客の表面的な認識の背後にある深層心理を理解することで、より効果的なリ・ポジショニングが可能になります。

1. 機能的動機

製品・サービスの実用性や性能に関する動機

実例:トヨタ プリウス

  • 表層ニーズ: 燃費の良さ
  • 深層動機: 経済的な節約志向
  • リ・ポジショニングのヒント: 「エコ」から「スマートな経済選択」へ

2. 感情的動機

感情や気分に関連する動機

実例:スターバックス

  • 表層ニーズ: おいしいコーヒー
  • 深層動機: 自分へのご褒美、一時的な贅沢感
  • リ・ポジショニングのヒント: 「第三の場所」から「日常の小さな贅沢体験」へ

3. 社会的動機

他者との関係や社会的地位に関する動機

実例:テスラ

  • 表層ニーズ: 環境に優しい車
  • 深層動機: 先進的な価値観の表現、社会的ステータスの獲得
  • リ・ポジショニングのヒント: 「電気自動車」から「次世代モビリティライフスタイル」へ

4. 自己表現的動機

自己イメージや理想の表現に関する動機

実例:パタゴニア

  • 表層ニーズ: 高品質のアウトドアウェア
  • 深層動機: 環境意識の高い自己像の表現
  • リ・ポジショニングのヒント: 「環境に配慮したアウトドアブランド」から「持続可能な社会変革の共創者」へ

5. 好奇心的動機

新しい体験や知識の探求に関する動機

実例:GoPro

  • 表層ニーズ: 頑丈なカメラ
  • 深層動機: 冒険体験の記録と共有
  • リ・ポジショニングのヒント: 「アクションカメラ」から「人生の冒険を共有するプラットフォーム」へ

【実践ツール6】顧客心理洞察ワークシート

顧客セグメント表層ニーズ深層動機現在の認識目指すべき認識ギャップを埋める方法

実例:高級ホテルチェーンの分析

顧客セグメント表層ニーズ深層動機現在の認識目指すべき認識ギャップを埋める方法
ビジネスエリート快適な滞在環境効率的な時間活用、コントロール感「高級だが硬い」「効率と贅沢の完璧な融合」AI技術活用による超パーソナライズサービス
ラグジュアリー旅行者非日常体験自己価値の確認、優越感「高級だが没個性的」「唯一無二の体験提供者」ローカル文化との深い統合、物語性の強化
ファミリー層家族での思い出作り家族の絆強化、親としての成功感「子供連れには不向き」「家族の特別な瞬間を創出」世代を超えた体験プログラムの開発
シニア富裕層安心できるサービス健康への配慮、尊重されたい欲求「伝統的で堅実」「心身の充実をもたらす洗練空間」ウェルネスとヘルスケアの要素強化

アクションポイント:

  • 顧客調査から得られた洞察に基づき、リ・ポジショニングの方向性を検討する
  • 顧客の深層心理に訴求するストーリーやメッセージを開発する
  • 認識ギャップを埋めるための具体的なアクションプランを策定する

5. リ・ポジショニングの20の戦術と実践例

リ・ポジショニングを実現するための具体的な20の戦術を、実際の企業事例と共に解説します。

カテゴリーA:製品・サービス再定義戦術

1. カテゴリー再定義戦術

既存製品を全く新しいカテゴリーとして再定義する方法

実例:任天堂Wii

  • 旧ポジション: 高性能ゲーム機
  • 新ポジション: 家族全員のエンターテイメント・フィットネス機器
  • 実行内容:
  1. コントローラーを体を動かすモーションセンサー方式に変更
  2. 「Wii Sports」「Wii Fit」など家族全員で楽しめるコンテンツを前面に
  3. 広告でゲーマーではなく家族や高齢者をフィーチャー
  • 成果: ゲーマー以外の新規顧客層を開拓し、当時の家庭用ゲーム機市場でトップシェア獲得

実践ポイント:

  • 既存カテゴリーでの競争が困難な場合に有効
  • 製品特性だけでなく、使用文脈や顧客体験を変える
  • 従来とは異なる評価基準を市場に浸透させる

2. 用途拡張戦術

製品・サービスの新たな使用方法を提案してポジションを転換する方法

実例:アーム&ハンマーベーキングソーダ

  • 旧ポジション: 料理用ベーキングパウダー
  • 新ポジション: 多目的家庭用品(脱臭、掃除、歯磨きなど)
  • 実行内容:
  1. 「101の使い方」キャンペーンの展開
  2. 用途別の使用方法ガイドの作成
  3. パッケージデザインの刷新(料理→家庭用品)
  • 成果: 売上の大幅増加と製品寿命の延長

実践ポイント:

  • 新規用途開発のためのユーザー調査を実施
  • 用途別のパッケージやコミュニケーション戦略を検討
  • 既存ユーザーの意外な使用方法に注目

3. 製品属性強化戦術

既存製品の特定の属性を強化・前面化してポジションを変える方法

実例:ボルボ

  • 旧ポジション: 堅牢で長持ちする自動車
  • 新ポジション: 安全性を第一に考えた自動車
  • 実行内容:
  1. 安全技術への集中投資(三点式シートベルト、側面衝突防止など)
  2. 安全性テストの映像を活用した広告展開
  3. 「家族の安全」を訴求するメッセージングへの転換
  • 成果: 「安全なクルマ」の代名詞としてのブランド確立

実践ポイント:

  • 他社が模倣困難な強化可能な属性を選択
  • 選んだ属性が顧客にとって真に価値があるか検証
  • 属性強化を裏付ける具体的なエビデンスを用意

4. プレミアム化戦術

ブランドを上位市場に移行させてポジションを高める方法

実例:トヨタ・レクサス

  • 旧ポジション: 信頼性の高い大衆車メーカー
  • 新ポジション: 高級車セグメントにおける革新的ブランド
  • 実行内容:
  1. 全く新しいブランド「レクサス」の創設
  2. 専用販売チャネルと顧客体験の構築
  3. 「静粛性」など日本的価値観を取り入れた差別化
  • 成果: 北米高級車市場でのトップブランドへの成長

実践ポイント:

  • プレミアム価値を裏付ける実質的な品質向上が必須
  • 既存イメージからの脱却のため新ブランド立ち上げも検討
  • 顧客体験全体の一貫した高級化が重要

5. シンプル化戦術

複雑化した製品・サービスをシンプルに戻してポジションを変える方法

実例:Googleの検索エンジン

  • 市場状況: ポータルサイト(Yahoo!など)が複雑化・肥大化
  • 新ポジション: シンプルで使いやすい検索専用エンジン
  • 実行内容:
  1. 余計な機能を排除したミニマルなトップページデザイン
  2. 「検索」という単一機能への集中
  3. 「Don’t be evil」というシンプルな企業理念の発信
  • 成果: 検索エンジン市場でのリーディングポジション獲得

実践ポイント:

  • 業界全体が機能過多になっている場合に有効
  • 最も本質的な価値を特定し、それに集中
  • 顧客体験の簡素化と使いやすさの徹底追求

カテゴリーB:顧客関係再構築戦術

6. ターゲット転換戦術

全く異なる顧客層をターゲットにしてポジションを転換する方法

実例:ドクターマーチン

  • 旧ポジション: 労働者向けの頑丈な作業靴
  • 新ポジション: 反抗精神を表現するファッションアイテム
  • 実行内容:
  1. パンクロッカーやアーティストの愛用を積極的に活用
  2. 若者文化との結びつきを強化するコラボレーション
  3. ファッション雑誌やミュージックシーンでの露出増加
  • 成果: 作業靴から象徴的なファッションブランドへの変革

実践ポイント:

  • 既存ユーザーの意外な使用法から新たなターゲットを発見
  • 新ターゲット層のインフルエンサーとの協業
  • 既存顧客を失うリスクと新規顧客獲得のバランスを検討

7. 問題解決再定義戦術

解決する顧客の問題を再定義してポジションを転換する方法

実例:ライオン NONIO

  • 旧ポジション: 「虫歯予防」のための歯磨き粉
  • 新ポジション: 「口臭予防」のためのオーラルケア製品
  • 実行内容:
  1. 口臭ケア専用ブランド「NONIO」の立ち上げ
  2. 「口臭科学研究所」による科学的根拠の訴求
  3. パッケージと香りの刷新による使用体験の差別化
  • 成果: オーラルケア市場での新たなカテゴリー確立と市場シェア獲得

実践ポイント:

  • 顧客の未解決または新たに生じている問題を特定
  • 問題解決の新しいフレームワークを提示
  • 解決策の有効性を示す具体的な証拠を提供

8. 体験価値転換戦術

製品・サービスの体験価値を再定義する方法

実例:スターバックス(日本展開初期)

  • 市場状況: 「喫茶店」という伝統的カテゴリーが存在
  • 新ポジション: 「第三の場所」としてのコーヒー体験
  • 実行内容:
  1. 店内での長時間滞在を促す空間設計
  2. バリスタとのコミュニケーションを重視したサービス
  3. コーヒーのカスタマイズによる個人化体験
  • 成果: コーヒーショップ市場の再定義と拡大

実践ポイント:

  • 製品・サービス自体よりも顧客体験全体を設計
  • 体験を構成する要素(空間、人、プロセス)を総合的に見直し
  • 体験を通じて顧客に提供する感情的価値を明確化

9. コミュニティ構築戦術

顧客同士のつながりを促進することでポジションを強化する方法

実例:ハーレーダビッドソン

  • 旧ポジション: アメリカンバイクメーカー
  • 新ポジション: ライダーのライフスタイルと仲間意識を象徴するブランド
  • 実行内容:
  1. 「HOG (Harley Owners Group)」の設立と活動支援
  2. ライダー同士の交流イベントの定期開催
  3. 独自のライダー文化の育成と象徴的なアパレルライン展開
  • 成果: 単なる製品提供者からライフスタイルブランドへの進化

実践ポイント:

  • 顧客間のつながりを促進するプラットフォームの構築
  • ブランドを中心とした共通のアイデンティティの創造
  • 顧客自身がブランド体験の共同創造者になる仕組み

10. バリュープロポジション再構築戦術

顧客への本質的な価値提案を再構築する方法

実例:ドミノピザ

  • 旧ポジション: 「30分以内にお届け」の宅配ピザ
  • 新ポジション: テクノロジーで最適化された食体験を提供する企業
  • 実行内容:
  1. ピザの味と品質の根本的な改善
  2. 注文・配達プロセスの全面的なデジタル化
  3. 「自社はピザ屋ではなくテック企業である」というメッセージ発信
  • 成果: 業績V字回復と株価の急上昇

実践ポイント:

  • 顧客が本当に価値を感じる要素を根本から再検討
  • 新しい価値提案を裏付ける製品・サービス改革
  • 顧客の期待を超える価値提供方法の創造

カテゴリーC:ビジネスモデル転換戦術

11. 収益モデル転換戦術

収益を得る方法を根本的に変えることでポジションを転換する方法

実例:アドビ

  • 旧ポジション: クリエイティブソフトウェアのパッケージ販売
  • 新ポジション: クリエイティブクラウドサービスの提供者
  • 実行内容:
  1. パッケージ販売からサブスクリプションモデルへの転換
  2. クラウドベースの協働機能の強化
  3. 頻繁な機能アップデートによる継続的価値提供
  • 成果: 安定的な収益基盤の確立と顧客生涯価値の向上

実践ポイント:

  • 顧客にとっての価値と支払い方法の整合性を検証
  • 移行期の収益減少に備えた計画策定
  • 新しい収益モデルを支える組織・評価体系の再構築

12. 流通チャネル転換戦術

製品・サービスの提供経路を変えることでポジションを転換する方法

実例:資生堂「SHISEIDO」グローバルブランド

  • 旧ポジション: 日本の高品質化粧品メーカー
  • 新ポジション: グローバルラグジュアリービューティーブランド
  • 実行内容:
  1. 国内中心の百貨店販売から世界の高級百貨店へ展開
  2. 欧米セレクトショップでの取り扱い強化
  3. ブランド統一による海外市場でのプレミアムポジショニング
  • 成果: グローバルプレステージブランドとしての地位確立

実践ポイント:

  • 新チャネルと顧客体験・ブランドイメージの整合性確保
  • チャネルパートナーとの関係強化と専用施策の展開
  • 複数チャネルでの一貫したブランド体験の実現

13. バリューチェーン再構築戦術

事業の価値連鎖を再定義することでポジションを転換する方法

実例:ナイキ

  • 旧ポジション: スポーツシューズメーカー
  • 新ポジション: スポーツライフスタイルのデジタルエコシステム企業
  • 実行内容:
  1. 自社工場の閉鎖と製造の完全アウトソーシング
  2. R&D、デザイン、マーケティングへの集中投資
  3. Nike+やNIKE Training Clubなどデジタルサービスの強化
  • 成果: 製造業からブランド+テクノロジー企業への進化

実践ポイント:

  • 業界のバリューチェーンを根本から再検討
  • 自社の強みを発揮できる領域への集中投資
  • 外部パートナーとの戦略的協業関係の構築

14. テクノロジー統合戦術

最新技術を統合することでポジションを転換する方法

実例:ダイソン

  • 旧ポジション: 革新的な掃除機メーカー
  • 新ポジション: 先端エンジニアリング技術企業
  • 実行内容:
  1. 多分野への技術応用(扇風機、ヘアケア、照明など)
  2. 独自の研究開発施設への大規模投資と情報発信
  3. AIやロボティクス技術の積極的導入
  • 成果: 単一製品メーカーから多角的テクノロジー企業への進化

実践ポイント:

  • 自社コア技術の異分野への応用可能性を検討
  • 外部の革新的技術の取り込み(M&A、提携など)
  • 「テクノロジーカンパニー」としての組織文化・能力構築

15. サステナビリティ転換戦術

環境・社会的責任を中核に据えてポジションを転換する方法

実例:ユニリーバ

  • 旧ポジション: 日用消費財メーカー
  • 新ポジション: 持続可能なビジネスモデルで社会に貢献する企業
  • 実行内容:
  1. 「サステナブル・リビング・プラン」の策定と実行
  2. 環境負荷の少ない製品ラインの強化
  3. サプライチェーン全体での持続可能性向上
  • 成果: 企業価値の向上と新たな消費者層の獲得

実践ポイント:

  • サステナビリティを単なるCSRでなく事業戦略の中核に位置づけ
  • 環境・社会配慮を実証できる具体的な取り組みと数値目標
  • 外部評価・認証の活用によるクレディビリティ向上

カテゴリーD:コミュニケーション転換戦術

16. ブランドストーリー刷新戦術

ブランドの物語を根本から作り直す方法

実例:バーバリー

  • 旧ポジション: イギリスの伝統的高級ブランド(一時は偽物や過剰流通で低迷)
  • 新ポジション: デジタル時代のイノベーティブなラグジュアリーブランド
  • 実行内容:
  1. 「British Heritage meets Digital Innovation」というストーリーライン構築
  2. デジタルファーストの体験(ライブストリーミングショーなど)
  3. 若手デザイナーの起用と伝統とモダンの融合
  • 成果: ブランド価値の大幅向上と若年層顧客の獲得

実践ポイント:

  • 過去の遺産を尊重しながらも現代的解釈を加える
  • 共感を呼ぶ真実に基づいたブランドストーリーの構築
  • あらゆる接点でストーリーを一貫して伝える

17. ビジュアルアイデンティティ刷新戦術

ロゴ、色、デザインなどの視覚的要素を刷新する方法

実例:メルカリ

  • 旧ポジション: フリマアプリ
  • 新ポジション: 循環型社会のためのマーケットプレイス
  • 実行内容:
  1. ロゴの全面刷新(丸型の「あたたかみ」のあるデザイン)
  2. カラーパレットの変更(明るいマゼンタとグラデーション)
  3. イラストレーションスタイルの統一による親しみやすさの表現
  • 成果: 国内外での認知度向上とブランド印象の改善

実践ポイント:

  • 新しいポジショニングを視覚的に表現するデザイン言語の開発
  • ビジュアル要素変更の理由と意味を明確に説明
  • すべての顧客接点での一貫した視覚的表現の徹底

18. コミュニケーションチャネル転換戦術

主なコミュニケーション媒体や方法を変更する戦術

実例:Old Spice

  • 旧ポジション: 古い世代のための伝統的なメンズケア製品
  • 新ポジション: 若者の間で話題になるユーモアあるブランド
  • 実行内容:
  1. テレビからYouTubeやSNSへのメディアシフト
  2. 「The Man Your Man Could Smell Like」バイラルキャンペーン
  3. リアルタイムレスポンスを取り入れたソーシャルメディア戦略
  • 成果: 若年層市場でのシェア回復とブランド認知の刷新

実践ポイント:

  • ターゲット顧客の情報収集・消費行動の徹底分析
  • 新チャネルの特性を活かした専用コンテンツの開発
  • 従来のメディアミックスからの適切な移行スケジュール策定

19. インフルエンサー戦略転換戦術

影響力のある人物や組織との関係を再構築する戦術

実例:アンダーアーマー

  • 旧ポジション: スポーツウェアの新興ブランド
  • 新ポジション: パフォーマンスとテクノロジーを追求するイノベーター
  • 実行内容:
  1. ステファン・カリーなど次世代アスリートとの契約
  2. 従来のスポーツ分野を超えたフィットネスアプリ企業の買収
  3. データドリブンのアスリートパフォーマンス向上プラットフォーム構築
  • 成果: グローバル市場でのプレゼンス向上と新領域への展開

実践ポイント:

  • 新たなポジショニングと整合するインフルエンサーの選定
  • 長期的パートナーシップを通じた深い関係構築
  • インフルエンサー自身のストーリーとブランドストーリーの融合による真正性の確保

20. 危機対応型リ・ポジショニング戦術

ブランドの危機や問題を契機にポジションを積極的に転換する方法

実例:サムスン(ギャラクシーノート7発火問題後)

  • 旧ポジション: 「より多くの機能」を提供するスマートフォンメーカー
  • 新ポジション: 「消費者の安全と品質を最優先」する企業
  • 実行内容:
  1. 問題の透明な開示と謝罪
  2. 厳格な「8ポイント品質チェック」プロセスの構築と情報発信
  3. 顧客中心の製品開発プロセスへの転換
  • 成果: 信頼回復とブランド価値の再構築

実践ポイント:

  • 危機を正直に認め、真摯に対応する
  • 問題解決だけでなく、将来の予防策を明確に示す
  • 危機をきっかけとした組織変革の断行

【実践ツール7】戦術選択マトリクス

適切なリ・ポジショニング戦術を選択するためのフレームワーク

リ・ポジショニングの目的市場環境の変化競合状況自社資源・能力推奨戦術
競争力回復1, 3, 5, 10, 16
新市場開拓1, 2, 6, 12, 18
ブランド価値向上4, 8, 9, 16, 17
ビジネスモデル転換11, 12, 13, 14
危機からの回復7, 10, 16, 20

● = 非常に適合 ▲ = やや適合 - = どちらでもない

実際の戦術選定例:地方百貨店Eの場合

現状分析:

  • 売上減少、EC台頭による消費行動変化
  • 主要顧客の高齢化、若年層取込み失敗
  • 地域における信頼と強固なロイヤル顧客基盤は保持
  • 大規模投資余力は限定的

リ・ポジショニングの目的: 競争力回復と新市場開拓

選定戦術:

  1. ターゲット転換戦術(#6)
  • シニア層だけでなく「地域の新しい家族層」へのアプローチ
  • 成功例:「〇〇家の〇〇代目」をコンセプトにしたキャンペーン
  1. 体験価値転換戦術(#8)
  • 「モノを買う場所」から「体験とコミュニティの場」へ
  • 成功例:館内での地域体験型イベントやワークショップの定期開催
  1. コミュニティ構築戦術(#9)
  • 地域コミュニティのハブとしての機能強化
  • 成功例:地元生産者と消費者をつなぐマルシェの定期開催
  1. 流通チャネル転換戦術(#12)
  • リアル店舗とデジタルの融合
  • 成功例:店舗限定デジタルコンテンツの開発とオンラインサービス拡充
  1. ブランドストーリー刷新戦術(#16)
  • 「地域の歴史の証人」から「地域の未来を創る場」へ
  • 成功例:過去の歴史を活かしつつ、未来志向のビジョンを発信

アクションポイント:

  • 自社の状況と目標に最適な戦術組み合わせを検討する
  • 複数の戦術を組み合わせた総合的なアプローチを計画する
  • 各戦術の実行順序と相互関連を明確にする

6. 組織内変革の実行プロセス

リ・ポジショニングは単なる外部向けのイメージ変更ではなく、組織全体の変革を伴います。この章では組織内での変革実行プロセスを解説します。

リ・ポジショニングの組織的実行の6ステップ

ステップ1:危機意識の共有と変革ビジョンの明確化

実践アクション:

  1. 現状データの見える化(市場シェア推移、顧客満足度など)
  2. 競合分析結果の全社共有
  3. 外部環境変化の明確な説明
  4. 新たなポジショニングビジョンの明確化

実例:ソニー(平井社長時代)

  • データに基づく「各事業の収益性と将来性」の徹底分析
  • 「One Sony」ビジョンの明確化
  • 社員向け変革必要性説明会の全拠点開催
  • 具体的な財務目標とタイムラインの提示

ステップ2:変革推進チームの編成

実践アクション:

  1. 組織横断的なタスクフォースの結成
  2. 経営層のスポンサーシップ確保
  3. 外部専門家の戦略的活用
  4. 変革推進チームへの十分な権限委譲

実例:マイクロソフト(サティア・ナデラ時代)

  • 主要事業部からの精鋭メンバーによる「変革推進オフィス」設立
  • CEO直轄のリポートラインとリソース配分権限の付与
  • 外部コンサルタントとの協業による客観的視点の導入
  • 四半期ごとの進捗確認と全社共有の仕組み構築

ステップ3:組織体制とインセンティブの再設計

実践アクション:

  1. 新ポジショニングに合わせた組織構造の見直し
  2. 評価・報酬制度の再設計
  3. 必要スキルセットの特定と育成・採用計画の立案
  4. 組織文化変革のためのリーダーシップ開発

実例:アドビ(サブスクリプションモデル移行時)

  • 製品販売組織からサービス提供組織への再編
  • 「一時的な収益低下」を織り込んだ過渡期の評価制度設計
  • カスタマーサクセス機能の新設と人材投入
  • リーダー向け「変革マネジメント」トレーニングプログラムの実施

ステップ4:初期の小さな成功体験の創出

実践アクション:

  1. 新ポジショニングを体現する「クイックウィン」の設計
  2. 早期実行可能な「シンボリックな変化」の実施
  3. 成功事例の見える化と全社共有
  4. 成功チームの表彰と認知

実例:パナソニック(家電からB2Bソリューションへの転換)

  • 既存顧客での小規模ソリューション事業の成功事例作り
  • 「パナソニック ソリューションズ」ブランドの立ち上げ
  • 社内報や全社集会での成功事例紹介
  • 新事業開発チームへの特別インセンティブ付与

ステップ5:全社的な実行計画の展開

実践アクション:

  1. 部門ごとの実行計画策定
  2. 明確なKPIとマイルストーンの設定
  3. 定期的な進捗レビューと軌道修正の仕組み構築
  4. 経営資源の戦略的再配分

実例:資生堂(グローバルブランド戦略展開時)

  • 地域別・ブランド別の詳細アクションプラン策定
  • 四半期ごとの「グローバルトランスフォーメーション会議」開催
  • 新ポジショニングに沿った投資優先順位の見直し
  • 全拠点共通のダッシュボードによる進捗管理

ステップ6:成果の定着と継続的進化

実践アクション:

  1. 新たな業務プロセスや行動様式の標準化
  2. 継続的な教育・研修プログラムの実施
  3. 定期的な市場環境変化への対応力強化
  4. 次世代リ・ポジショニング視点の育成

実例:トヨタ(「モビリティカンパニー」への変革)

  • 「モビリティカンパニー」行動指針の策定と浸透
  • 全従業員向けデジタルスキル開発プログラムの展開
  • 定期的な「モビリティ未来ラボ」での市場トレンド分析
  • 次世代リーダー育成プログラムに変革マネジメント要素を組込み

【実践ツール8】組織変革レディネスチェックリスト

リ・ポジショニングに向けた組織の準備状態を診断するツール

評価項目1
全く準備できていない
2
部分的に準備
3
ある程度準備
4
十分に準備
5
完全に準備
アクションプラン
1. 変革の緊急性が全社で認識されている
2. 経営層が変革に強くコミットしている
3. 新ポジショニングのビジョンが明確である
4. 必要な経営資源が確保されている
5. 変革を推進するチームが編成されている
6. 社内のキーインフルエンサーが巻き込まれている
7. リ・ポジショニングに必要なスキルセットがある
8. 評価制度が新ポジショニングを支援している
9. 変革への抵抗を管理する計画がある
10. 進捗を測定するKPIが設定されている

実際の分析例:電機メーカーFのリ・ポジショニング(家電→産業ソリューション)

評価項目スコアアクションプラン
1. 変革の緊急性が全社で認識されている2・経営データの全社共有強化
・各部署向け環境変化説明会の実施
2. 経営層が変革に強くコミットしている4・中間管理職への変革メッセージ浸透強化
3. 新ポジショニングのビジョンが明確である3・ビジョンの具体例やストーリーの追加
・各部門での個別解釈の明確化
4. 必要な経営資源が確保されている2・戦略的投資枠の設定
・既存事業の優先順位見直し
5. 変革を推進するチームが編成されている1・横断的変革推進チームの早急な編成
・外部専門家の採用検討
6. 社内のキーインフルエンサーが巻き込まれている2・各部門のオピニオンリーダーの特定と巻き込み
・変革推進ネットワークの構築
7. リ・ポジショニングに必要なスキルセットがある2・ソリューション人材の採用計画策定
・既存社員向けスキル転換プログラム開発
8. 評価制度が新ポジショニングを支援している1・評価指標の見直し
・ソリューション型ビジネス向けKPIの設定
9. 変革への抵抗を管理する計画がある2・部門別の抵抗要因分析
・変革コミュニケーション戦略の策定
10. 進捗を測定するKPIが設定されている3・定性的指標の追加
・中間マイルストーンの設定

総合診断: 変革レディネス度22/50(変革準備が不十分)
主要課題: 変革推進体制の欠如、評価制度の不整合、リソース配分の課題
優先アクション: 変革推進チームの早急な編成、評価制度の見直し、変革への社内抵抗管理計画の策定

変革実行時の4つの障壁と対応策

1. 認識の障壁

社員が変革の必要性を理解していない

対応策:

  • データに基づく現状と将来リスクの可視化
  • 外部環境変化の定期的な情報提供
  • 顧客の声や競合動向の生の情報共有
  • 成功企業・失敗企業の事例学習

実例:富士フイルム(フィルム→多角化)

  • 「デジタルカメラ普及によるフィルム需要予測」の全社共有
  • 社員向け「写真産業の未来」セミナーシリーズの開催
  • コダックの失敗事例を教訓として共有

2. 能力の障壁

新ポジショニングに必要なスキルや知識が不足している

対応策:

  • 必要スキルセットの明確化とギャップ分析
  • 戦略的な採用・育成計画の策定
  • 部門横断チームによる知識共有の促進
  • 外部パートナーとの協業による能力補完

実例:IBM(ハードウェア→サービス・コンサルティング)

  • 全社的なスキル棚卸しと再教育プログラムの実施
  • コンサルティングスキル保有者の戦略的採用
  • 社内大学「IBM Academy」の設立
  • PwCコンサルティング買収による能力獲得

3. 動機の障壁

社員が変革に協力する意欲が低い

対応策:

  • 変革の成功がもたらす個人的メリットの明確化
  • 短期的な「小さな勝利」の創出と共有
  • 変革への貢献を評価する報酬制度の設計
  • 経営層による一貫したメッセージ発信と行動

実例:マイクロソフト(製品販売→クラウドサービス)

  • クラウドビジネス成長へのインセンティブ付与
  • 成功事例を称える「クラウドチャンピオン制度」の創設
  • CEOによる定期的な「クラウドファースト」メッセージの発信
  • 業績評価指標へのクラウド関連KPIの組込み

4. 構造の障壁

組織構造や業務プロセスが変革を阻害している

対応策:

  • 新ポジショニングに適合する組織再編
  • 部門間連携を促進する横断的プロジェクト体制
  • 意思決定プロセスの簡素化と権限委譲
  • レガシーシステム・プロセスの刷新

実例:アップル(コンピュータ→デジタルライフスタイル)

  • 製品別から機能別組織への再編
  • スティーブ・ジョブズによる会議参加者の厳選と意思決定の迅速化
  • 製品ラインの大幅削減による集中と選択
  • デザインとエンジニアリング部門の密接な連携体制構築

アクションポイント:

  • 組織の変革レディネスを定期的に診断する
  • 変革の障壁となる要素を特定し、対策を講じる
  • 変革推進体制を構築し、適切な権限と資源を配分する
  • 短期的な成功を創出し、変革のモメンタムを維持する

7. コミュニケーション戦略の再構築

リ・ポジショニングを成功させるためには、新たなポジションを市場に効果的に伝えるコミュニケーション戦略が不可欠です。

リ・ポジショニング・コミュニケーションの5つの原則

原則1:明確な「理由付け」を提示する

なぜリ・ポジショニングするのかの説得力ある理由を示す

実践ポイント:

  • 市場環境変化や顧客ニーズの変化を根拠として提示
  • 過去からの自然な進化として説明
  • 変化の必然性を示す事実やデータの活用

実例:トヨタ「モビリティカンパニー」への転換

  • メッセージ例: 「100年に一度の大変革期を迎え、移動そのものの価値を再定義するために、自動車会社からモビリティカンパニーへと進化します」
  • 伝達方法: 豊田社長自らによるCESでのビジョン発表
  • 成功要因: 自動車産業の変革期という外部環境の変化を明確に提示

原則2:過去の資産を尊重しながら未来を示す

ブランドの遺産を活かしつつ新方向性を示す

実践ポイント:

  • 企業の歴史やDNAとの連続性を強調
  • 変わるものと変わらないものを明確に区別
  • 過去の成功を未来につなげるストーリーの構築

実例:バーバリー(伝統的英国ブランドからデジタル時代の高級ブランドへ)

  • メッセージ例: 「160年の英国の伝統とクラフトマンシップを、デジタル時代の革新性で再解釈する」
  • 伝達方法: 伝統的なトレンチコートとデジタル技術を融合させた「Burberry Acoustic」などのコンテンツ
  • 成功要因: ブランドの本質(英国性、品質、職人技)を保ちながらも、表現方法と体験を現代化

原則3:一貫性と継続性を保つ

あらゆる接点で一貫したメッセージを継続的に発信する

実践ポイント:

  • 全てのコミュニケーション要素の統合
  • 長期的な視点でのメッセージ継続
  • ステークホルダーごとのメッセージカスタマイズ

実例:IBMの「Smarter Planet」イニシアチブ

  • メッセージ例: 「より賢い地球のために、データと技術で世界をよりスマートにする」
  • 伝達方法: 広告、ホワイトペーパー、カンファレンス、顧客事例など全チャネルでの統合的発信
  • 成功要因: 8年以上にわたる一貫したメッセージの継続と具体的な事例の蓄積

原則4:内部と外部の同時変革を図る

社内外に同時にコミュニケーションし、整合性を確保する

実践ポイント:

  • 社内向けコミュニケーションを社外に先行させる
  • 経営陣の言動一致によるメッセージの信頼性確保
  • 従業員をブランド大使として育成

実例:マイクロソフト(製品中心からクラウドサービス企業へ)

  • メッセージ例: 「モバイルファースト、クラウドファーストの世界で、すべての人とすべての組織がより多くのことを達成できるようにする」
  • 伝達方法: CEOによる全社集会、社内クラウド認定プログラム、部門別ワークショップ
  • 成功要因: サティア・ナデラCEOが率先してクラウドツールを活用し、自ら変化を体現

原則5:段階的なメッセージ展開を設計する

市場の受容度に合わせて段階的にコミュニケーションを展開する

実践ポイント:

  • 準備段階、発表段階、浸透段階、強化段階のプランニング
  • ステークホルダー別の理解度に合わせた情報提供
  • 各フェーズでのフィードバック収集と軌道修正

実例:アップル(コンピュータ会社からデジタルエンターテイメント企業へ)

  • メッセージ例: 「Think Different」から始まり「Digital Hub Strategy」を経て製品カテゴリごとの訴求へ
  • 伝達方法: まず企業姿勢の転換を示し、次にビジョンを提示、その後に具体的製品を展開
  • 成功要因: 顧客の理解度と製品開発状況に合わせた段階的なメッセージ展開

【実践ツール9】リ・ポジショニング・コミュニケーション計画シート

フェーズ期間主要メッセージ対象者主要チャネルKPI責任者
準備段階
発表段階
浸透段階
強化段階

実際の計画例:電子部品メーカーG(部品メーカー→IoTソリューション企業)

フェーズ期間主要メッセージ対象者主要チャネルKPI責任者
準備段階3ヶ月「IoT時代の到来と電子部品の新たな役割」社内、既存顧客、業界アナリスト社内報、顧客向けニュースレター、業界誌寄稿・社内認知度80%
・顧客予備調査実施完了
社長室長
発表段階2ヶ月「部品からソリューションへ:IoTで実現する未来」全ステークホルダー記者発表会、新ブランドサイト、トレードショー・メディア掲載50件
・新規問合せ100件
マーケティング部長
浸透段階12ヶ月「IoTソリューションがもたらす具体的価値」既存・新規顧客、パートナー事例紹介、セミナー、デモンストレーション・事例数20件
・セミナー参加者2000名
事業開発部長
強化段階継続「業界別IoTソリューションの実績と成果」業界別ターゲット業界専門誌、専門展示会、インフルエンサープログラム・業界別ソリューション認知度50%
・パートナーエコシステム30社
各事業部長

メディアミックス最適化のポイント

リ・ポジショニングを効果的に伝えるためのメディア選定と活用方法

1. 伝統的メディアの戦略的活用

信頼性と幅広いリーチを活かした使い方

効果的な場面:

  • 大規模なリ・ポジショニング発表時
  • ブランドの信頼性・正当性の構築時
  • シニア層や伝統的な業界へのアプローチ

実例:シャープ(AQUOSブランドのリ・ポジショニング)

  • テレビCMと新聞広告を組み合わせた大規模発表
  • 有名タレントの起用による認知度向上と信頼性構築
  • 製品特性(大画面・高画質)とメディア特性(視覚訴求)の一致

2. デジタルメディアの統合的活用

ターゲティングとエンゲージメント強化

効果的な場面:

  • 具体的なユースケースや事例紹介
  • 若年層やイノベーター層へのアプローチ
  • 段階的な情報提供や詳細説明が必要な場合

実例:アクサ生命(保険会社からヘルスパートナーへ)

  • 公式サイトでのブランドストーリー再構築
  • SNSでの健康関連コンテンツ発信
  • リターゲティング広告によるニーズ別メッセージ配信
  • バイタルデータ活用サービスのデジタルデモ提供

3. イベントとリアル体験の創出

実体験を通じたメッセージ伝達

効果的な場面:

  • 製品・サービス体験が重要なリ・ポジショニング
  • 複雑なコンセプトの説明が必要な場合
  • インフルエンサーやオピニオンリーダーの巻き込み

実例:資生堂(化粧品メーカーから美の総合カンパニーへ)

  • 「SHISEIDO GINZA TOKYO」フラッグシップストアの刷新
  • 美容とテクノロジーを融合した体験型イベントシリーズ
  • 世界各地での「Beauty Innovation Summit」開催

4. ソーシャルメディアとインフルエンサー活用

共感と拡散を促す戦略

効果的な場面:

  • 若年層や特定コミュニティへのアプローチ
  • リアルタイムのフィードバック収集
  • ブランドの人間的側面や価値観の表現

実例:ユニクロ(低価格衣料店から「LifeWear」企業へ)

  • InstagramやTikTokでの「#LifeWear」ハッシュタグキャンペーン
  • 多様なインフルエンサーによるライフスタイル提案
  • クリエイターコラボレーションのストーリーテリング
    グジュアリー戦略**
  • ブランド価値(24億ドル→51億ドル)
  • 若年層(18-34歳)の好意度(+47%)
  • ソーシャル言及の肯定的センチメント(67%→84%)
  • ラグジュアリーブランドランキング(21位→11位)

5. 組織指標

社内の変革成果と組織文化への影響

主要KPI:

  • 従業員エンゲージメント
  • 新ポジショニング適合スキル保有率
  • リーダーシップの変革推進度
  • 組織風土変化
  • 人材獲得・定着率

測定方法:

  • 従業員サーベイ
  • スキル評価
  • 360度フィードバック
  • 離職率・応募率分析

実例:IBMの「Smarter Planet」戦略

  • データサイエンティスト採用(+850人)
  • クラウド関連スキル保有社員(+15,000人)
  • 従業員エンゲージメントスコア(+18ポイント)
  • 「企業ビジョンへの共感」スコア(+22ポイント)

【実践ツール12】リ・ポジショニング成果バランススコアカード

4つの視点から包括的にリ・ポジショニングの成果を評価するフレームワーク

視点評価指標基準値目標値現在値進捗率次のアクション
顧客視点
ブランド認知度
顧客満足度
新規顧客獲得率
財務視点
売上成長率
粗利率変化
市場シェア
内部プロセス視点
新製品開発数
業務プロセス効率
クロスファンクショナル協業
学習と成長視点
必要スキル保有率
従業員エンゲージメント
イノベーション提案数

実際の評価例:家電メーカーI(製品メーカー→スマートホームソリューション企業)

視点評価指標基準値目標値現在値(1年後)進捗率次のアクション
顧客視点
スマートホームソリューションとしての認知度15%50%32%49%ターゲット層へのデジタル広告強化
NPS+12+40+2650%ユーザーフィードバックに基づくUX改善
アプリケーション利用率22%70%45%48%アプリ機能拡充とプッシュ通知最適化
財務視点
ソリューション事業売上比率8%30%17%41%既存製品へのソリューション連携機能追加
顧客あたり製品所有数1.32.51.842%クロスセルプロモーション強化
定期収入比率2%20%11%50%サブスクリプションモデルの価値訴求強化
内部プロセス視点
ソフトウェア開発サイクル時間120日30日62日64%アジャイル開発チーム増強
製品間連携対応率15%90%48%44%共通プラットフォーム開発の加速
データ活用ソリューション数315733%データサイエンティストの増員
学習と成長視点
ソフトウェア開発スキル保有率12%50%31%50%社内エンジニア育成プログラムの拡大
新ポジショニングへの従業員理解度35%90%72%67%部門別浸透プログラムの継続
クロス部門プロジェクト参加率8%40%22%44%インセンティブ制度の見直しと部門間交流促進

総合評価:

  • 進捗率平均:49%(目標に対して順調だが加速が必要)
  • 強み:内部変革の取り組み、特に従業員の理解向上とソフトウェア開発プロセスの改善
  • 課題:データ活用ソリューション開発とクロスセルの加速が必要
  • 次の重点領域:アプリケーション利用率向上とソリューション事業の拡大

軌道修正のための5つのアプローチ

1. 深化(Deepening)アプローチ

現在の方向性を維持しながら、取り組みを強化・加速する方法

適用条件:

  • 全体的な進捗が予定より遅れている
  • 方向性は正しいが、実行力や資源投入が不足している
  • 市場の受容性は高いが、内部変革が追いついていない

実践例:パナソニック(家電メーカー→住空間ソリューション企業)

  • 住宅IoTプラットフォーム投資の大幅増強
  • スマートホーム人材の積極採用(2年で+500名)
  • ホームビルダーとの戦略的パートナーシップ拡大

実行のポイント:

  • リソース配分の大胆な見直し
  • 専任チームの強化と権限拡大
  • 外部からの専門人材の積極登用
  • 経営層によるコミットメントの可視化

2. 調整(Adjustment)アプローチ

基本方針は維持しながら、一部要素を市場反応に合わせて微調整する方法

適用条件:

  • 一部指標で目標と実績に乖離がある
  • 顧客フィードバックに基づく修正が必要
  • 競合の反応に対応する必要がある

実践例:楽天(ECサイト→エコシステムプラットフォーム)

  • ポイントプログラムの仕組みを顧客行動分析に基づき調整
  • モバイルサービス展開のタイミングと価格戦略の修正
  • フィンテックサービスの訴求メッセージの顧客理解度に基づく刷新

実行のポイント:

  • 継続的な顧客フィードバック収集の仕組み構築
  • 定期的な競合分析とベンチマーキング
  • 小規模テストと迅速な改善サイクルの確立
  • データに基づく意思決定プロセスの強化

3. ピボット(Pivot)アプローチ

方向性を部分的に転換し、より効果的なアプローチを採用する方法

適用条件:

  • 現行戦略の特定要素が明らかに機能していない
  • 市場環境に想定外の変化がある
  • 新たな機会が発見された

実践例:任天堂(Wii U失敗からSwitch成功へ)

  • ホームゲーム機とポータブル機の融合という新コンセプトへの転換
  • 「家族向け」から「あらゆる場面でのプレイ体験」へのメッセージ変更
  • サードパーティデベロッパー戦略の抜本的見直し

実行のポイント:

  • 失敗を認め、学びを組織に定着させる
  • 顧客インサイトに基づく新たな方向性の検討
  • 迅速な意思決定と実行のための体制整備
  • 変更理由の透明な社内外コミュニケーション

4. 段階的移行(Phased Transition)アプローチ

当初計画より段階を細分化し、順序を調整する方法

適用条件:

  • 組織の受容性や能力に合わせた調整が必要
  • 市場の反応を見ながら慎重に進める必要がある
  • 財務的制約から投資の分散が必要

実践例:資生堂(日本発化粧品→グローバルビューティーカンパニー)

  • グローバルブランド再編を地域別に段階実施
  • プレステージブランド→ミドルブランド→マスブランドの順で改革
  • デジタル戦略の店舗タイプ別段階導入

実行のポイント:

  • より詳細な移行ロードマップの作成
  • 各段階の明確な成功基準の設定
  • 初期段階での学びを後続段階に活かす仕組み
  • 柔軟な実行計画とリソース配分の調整機能

5. 根本的再検討(Fundamental Rethink)アプローチ

リ・ポジショニングの基本前提から見直す方法

適用条件:

  • 複数の重要指標で目標達成が著しく困難
  • 市場環境が根本的に変化している
  • 初期の前提や仮説が明らかに誤っていた

実践例:ノキア(スマートフォン失敗後のネットワーク機器企業への転換)

  • スマートフォン事業の売却と事業ドメインの抜本的見直し
  • 通信インフラ事業への集中と関連M&Aの実施
  • 「繋がる人々」から「繋がるインフラ」へのビジョン転換

実行のポイント:

  • 現状分析の徹底と失敗の根本原因特定
  • 長期視点での市場機会の再評価
  • 主要ステークホルダーとの率直な対話
  • 会社の強みと核となる能力の再定義

【実践ツール13】軌道修正意思決定マトリクス

リ・ポジショニング戦略の修正方法を決定するためのフレームワーク

評価項目深化
(Deepening)
調整
(Adjustment)
ピボット
(Pivot)
段階的移行
(Phased Transition)
根本的再検討
(Fundamental Rethink)
方向性の妥当性×
顧客反応×
実行力
市場環境適合×
資源投入レベル高い中程度高い分散可能非常に高い
タイミング迅速迅速中期的長期的長期的
リスクレベル非常に高い

● = 高い適合性 △ = 中程度の適合性 × = 低い適合性

実例:自動車部品メーカーJのリ・ポジショニング見直し(2年目レビュー時点)

リ・ポジショニング目標: 部品メーカーから「モビリティテクノロジー企業」への転換

市場状況:

  • 自動運転技術への需要が当初予測を上回るペースで拡大
  • EV市場の成長が加速し、関連部品の重要性が増大
  • ソフトウェア能力の重要性が一層高まる

成果評価(2年経過時点):

  • 新規技術開発:目標比95%達成(順調)
  • 新領域売上比率:目標比45%達成(遅れ)
  • 人材獲得・変換:目標比35%達成(大幅遅れ)
  • ブランド認知度変化:目標比60%達成(やや遅れ)

課題分析:

  • 方向性自体は正しいが、実行速度が市場進化に追いついていない
  • ソフトウェア人材の獲得競争が激化し、採用目標を大幅に下回っている
  • 新技術開発は順調だが、顧客への価値訴求とマーケティングが不足
  • 伝統的部品ビジネスとの両立で組織の焦点が分散

軌道修正決定: 深化(Deepening)アプローチを採用

具体的アクション:

  1. ソフトウェア企業の買収による人材・技術の一括獲得
  2. 新事業への投資を当初計画の2倍に増額
  3. 伝統的部品事業の一部売却による経営資源の集中
  4. 技術開発と営業の統合チーム「モビリティソリューションズ」の新設
  5. CEOのKPIに新事業の業績比率を50%設定し、経営のコミットメントを明確化

アクションポイント:

  • 定期的なリ・ポジショニング進捗レビューの体制を構築する
  • 包括的な評価指標を設定し、継続的に測定する
  • 市場環境や進捗状況に応じて柔軟に戦略を調整する
  • 軌道修正の必要性を早期に見極め、適切なアプローチを選択する

9. 事例研究:10の成功例と5の失敗例

成功事例1:アップル(コンピュータメーカー→デジタルライフスタイル企業)

リ・ポジショニング前: パーソナルコンピュータのニッチメーカー
リ・ポジショニング後: デジタルライフスタイルを創造する企業

背景:

  • 1990年代後半、PCメーカーとしての市場シェア低下
  • 価格競争の激化とコモディティ化の進行
  • スティーブ・ジョブズの復帰(1997年)

主要戦術:

  1. カテゴリー再定義戦術: コンピュータ会社から「デジタルハブ」企業へ
  2. 製品ラインの簡素化: 70種類の製品から4種類へと集中
  3. ビジュアルアイデンティティ刷新: レインボーロゴから単色ロゴへ、製品デザインの統一
  4. 「Think Different」キャンペーン: 革新者としてのブランドイメージ確立
  5. iPod、iTunes、Apple Store開設: 新たなエコシステム構築

成功の指標:

  • 時価総額:1997年の20億ドルから2022年には3兆ドルへ
  • ブランド価値:世界最高額のブランドへ成長
  • 顧客ロイヤルティ:業界最高水準のリピート購入率

成功要因:

  • クリアな企業ビジョンと一貫した実行
  • デザインと使いやすさへの徹底したこだわり
  • ハードウェア、ソフトウェア、サービスの統合
  • ジョブズによる強力なリーダーシップと決断力

教訓:

  • 過去のアイデンティティにとらわれず大胆な変革が可能
  • 単なるブランドイメージだけでなく、製品・体験の抜本的刷新が必要
  • リ・ポジショニングには強力なリーダーシップとビジョンが不可欠

成功事例2:トヨタ(自動車メーカー→モビリティカンパニー)

リ・ポジショニング前: 品質と効率性で知られる自動車メーカー
リ・ポジショニング後: 「移動」に関わる価値創造企業

背景:

  • 自動運転技術の進化
  • シェアリングエコノミーの台頭による所有概念の変化
  • 環境規制の強化とカーボンニュートラル要求
  • テクノロジー企業の自動車産業参入

主要戦術:

  1. バリューチェーン再構築戦術: 製造中心からモビリティサービス提供へのシフト
  2. テクノロジー統合戦術: AIやビッグデータの積極活用、シリコンバレー研究所設立
  3. 用途拡張戦術: 自動車を「移動手段」から「生活空間」「エネルギーユニット」へ
  4. 組織変革: 製品別から機能別組織への再編
  5. 「Mobility for All」コンセプト発表: あらゆる人の移動の自由を支えるビジョン

成功の指標:

  • CASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)領域の特許取得数が業界トップ
  • モビリティサービス事業の売上増加
  • 投資家からの評価向上(PER改善)
  • 技術系人材の採用増加

成功要因:

  • 長期的視点での変革への早期着手
  • トップの強いコミットメントと明確なビジョン発信
  • 内部開発と戦略的提携のバランスある推進
  • 既存事業の収益力を活かした段階的な変革

教訓:

  • 業界リーダーであっても環境変化への対応は不可避
  • 長期的ビジョンと短期的実績のバランスが重要
  • リ・ポジショニングは段階的に実行可能

成功事例3:ネットフリックス(DVD郵送レンタル→ストリーミングコンテンツ企業)

リ・ポジショニング前: DVD郵送レンタルサービス
リ・ポジショニング後: グローバルエンターテイメント企業

背景:

  • ブロードバンドインターネットの普及
  • 顧客のオンデマンド志向の高まり
  • デジタルコンテンツ流通の急速な拡大
  • 伝統的メディア企業の市場支配力低下

主要戦術:

  1. 収益モデル転換戦術: 物理的商品レンタルからサブスクリプションモデルへ
  2. 段階的ピボット: DVDとストリーミングの並行運営から完全移行へ
  3. テクノロジー投資: 視聴データ分析とレコメンデーションエンジン開発
  4. オリジナルコンテンツ戦略: コンテンツ配信からコンテンツ制作会社へ
  5. グローバル展開: 米国中心から全世界190カ国以上へ

成功の指標:

  • 全世界の有料会員数:2億人以上(2022年時点)
  • オリジナルコンテンツの賞受賞(エミー賞、アカデミー賞など)
  • 時価総額:2007年約10億ドルから2021年約2,700億ドルへ
  • 「Netflix and chill」が文化的フレーズになるほどの浸透

成功要因:

  • 自社のカニバリゼーション(共食い)を恐れない決断力
  • データ駆動型の意思決定文化
  • 消費者行動変化の早期察知と積極対応
  • コンテンツとテクノロジーの両面での差別化

教訓:

  • 成功しているビジネスモデルでも環境変化に合わせて大胆に変革する勇気
  • データを活用した顧客理解が新たな価値創造につながる
  • 段階的な移行戦略により大きな変革もスムーズに実現可能

成功事例4:富士フイルム(フィルムメーカー→ヘルスケア・高機能材料企業)

リ・ポジショニング前: 写真フィルムメーカー
リ・ポジショニング後: 多角的高性能材料・ヘルスケア企業

背景:

  • デジタルカメラの台頭によるフィルム需要の急減
  • 同業他社(コダック)の経営危機
  • 長年蓄積した化学技術・精密技術の活用可能性
  • 高齢化社会におけるヘルスケア需要の拡大

主要戦術:

  1. バリューチェーン再構築戦術: コア技術を他分野へ横展開
  2. M&A戦略: 医薬品・化粧品企業の積極的買収(富山化学、アスタリフト)
  3. 問題解決再定義戦術: 「美しい画像の記録」から「美と健康の実現」へ
  4. R&D投資の重点シフト: 新領域への研究開発費の集中配分
  5. 組織文化変革: イノベーション促進のための意識改革

成功の指標:

  • 営業利益の構成:イメージング事業15%、ヘルスケア・高機能材料事業85%(2020年)
  • 株価回復と安定的成長
  • 特許出願数の増加と事業多角化の成功
  • ブランド認知の拡大(化粧品アスタリフトのヒットなど)

成功要因:

  • 危機意識の全社共有と早期対応
  • 技術資産の徹底的な棚卸しと応用可能性の探索
  • 中長期視点での大胆な投資判断
  • 強力なリーダーシップによる変革推進

教訓:

  • 既存技術の新たな応用可能性を探ることでリ・ポジショニングの基盤となる
  • 危機をチャンスに変える先見性と決断力の重要性
  • 過去の成功体験から脱却し、新たな領域に挑戦する組織文化の醸成

成功事例5:マイクロソフト(ソフトウェアライセンス企業→クラウドサービス企業)

リ・ポジショニング前: Windows・Officeを中心としたソフトウェア販売会社
リ・ポジショニング後: クラウドサービスとサブスクリプションビジネスの企業

背景:

  • クラウドコンピューティングの台頭
  • モバイルデバイスの普及と従来型PCの相対的地位低下
  • オープンソースの進展とソフトウェアの収益モデル変化
  • サティア・ナデラCEOの就任(2014年)

主要戦術:

  1. 収益モデル転換戦術: パッケージ販売からサブスクリプションモデルへ(Office 365)
  2. テクノロジー統合戦術: クラウドプラットフォーム(Azure)への集中投資
  3. 製品属性強化戦術: クロスプラットフォーム対応強化(iOSやAndroidへの対応)
  4. バリューチェーン再構築戦術: 開発プロセスのDevOps化と継続的デリバリー
  5. 組織文化変革: 「成長マインドセット」の浸透とオープン文化への転換

成功の指標:

  • Microsoft Cloudの年間収益:600億ドル超(2022年)
  • 時価総額:2014年の3,000億ドルから2022年には2兆ドル超へ
  • Microsoft 365のMAU(月間アクティブユーザー):3億人以上
  • デベロッパーコミュニティの活性化(GitHub買収後の急成長)

成功要因:

  • CEOの明確なビジョンとトップダウンによる変革推進
  • オープンで協調的な企業文化への転換
  • 顧客中心主義への回帰
  • 長期的価値創造への投資姿勢

教訓:

  • 強力なリーダーシップと明確なビジョンがリ・ポジショニングを加速する
  • 企業文化の変革がビジネスモデル転換の基盤となる
  • 短期的な収益減を恐れず長期的な価値創造にコミットする姿勢の重要性

成功事例6:アディダス(スポーツ用品メーカー→スポーツライフスタイルブランド)

リ・ポジショニング前: 機能性重視のスポーツ用品メーカー
リ・ポジショニング後: スポーツとファッションを融合したライフスタイルブランド

背景:

  • アスレジャー(アスレチック+レジャー)トレンドの台頭
  • ナイキとの競争激化と差別化の必要性
  • 若年層の消費行動変化(ソーシャルメディア影響力増大)
  • ファッションとスポーツの境界の曖昧化

主要戦術:

  1. ターゲット転換戦術: アスリートだけでなくファッション志向の若者にアプローチ
  2. コラボレーション戦略: カニエ・ウェスト、ステラ・マッカートニーなどとの協業
  3. ビジュアルアイデンティティ刷新: レトロモデルの復活とモダンデザインの融合
  4. デジタルマーケティング強化: インフルエンサー活用とソーシャルメディア戦略
  5. サステナビリティ転換戦術: 環境配慮型素材(Parley Ocean Plastic)の積極採用

成功の指標:

  • 売上高:2015年の168億ユーロから2019年の236億ユーロへ
  • Originals(ライフスタイル)ラインの売上比率増加
  • SNSフォロワー数の大幅増加
  • ヨーズ
  • イージーブーストなど話題商品の継続的発表とプレミアム価格の実現

成功要因:

  • 流行に敏感な若年層の嗜好変化への早期対応
  • ブランドヘリテージ(伝統)とモダンデザインの融合
  • ファッション業界との戦略的協業
  • デジタルマーケティングとD2C(Direct to Consumer)戦略の強化

教訓:

  • 時代の潮流を捉えたカテゴリー再定義が新たな成長をもたらす
  • 異業種との協業が新たなブランド価値を創出する
  • 歴史あるブランドも若年層のトレンドに合わせた刷新が可能

成功事例7:ドミノピザ(宅配ピザチェーン→テクノロジー活用フードサービス企業)

リ・ポジショニング前: 「30分以内に配達」で知られる低価格ピザチェーン
リ・ポジショニング後: テクノロジーで顧客体験を最適化する食サービス企業

背景:

  • 業績低迷と株価下落(2008年に3ドル台)
  • 商品品質への批判増加
  • デジタル技術の進化と消費者の利便性志向の高まり
  • フードデリバリーアプリの台頭

主要戦術:

  1. バリュープロポジション再構築戦術: 「ただ早い」から「品質と利便性」へのシフト
  2. 製品属性強化戦術: ピザのレシピ全面刷新と品質向上
  3. テクノロジー統合戦術: 注文アプリの先進化とAI活用
  4. 危機対応型リ・ポジショニング戦術: 自社の弱点を認め、改革を宣言
  5. コミュニケーションチャネル転換戦術: デジタルとソーシャルメディア重視の戦略

成功の指標:

  • 株価:2008年の3ドル台から2020年には400ドル超へ
  • デジタル注文比率:80%以上(業界最高水準)
  • 顧客満足度の大幅改善
  • 売上高の継続的成長(二桁成長率の維持)

成功要因:

  • 弱点の率直な認識と抜本的改革へのコミットメント
  • テクノロジー企業としての自己認識と投資
  • 顧客体験全体を最適化する統合的アプローチ
  • CEOの明確なビジョンと執行力

教訓:

  • 既存の弱点を率直に認め、改革に正面から取り組む姿勢が信頼回復につながる
  • テクノロジー活用は既存産業でも差別化要因となりうる
  • 顧客体験の全体最適化が競争力の源泉となる時代

成功事例8:レゴ(おもちゃメーカー→エデュテインメント企業)

リ・ポジショニング前: 伝統的なブロック玩具メーカー
リ・ポジショニング後: 教育とエンターテイメントを融合するブランド企業

背景:

  • 2000年代初頭の深刻な経営危機(2004年に破産の危機)
  • デジタル玩具の台頭とおもちゃ市場の変化
  • 子どもの遊び方の多様化
  • 製品ラインの過剰拡大による焦点の分散

主要戦術:

  1. 体験価値転換戦術: 「モノ」から「創造体験」の提供者へ
  2. コミュニティ構築戦術: 大人のファンコミュニティ(AFOL)の積極的支援
  3. デジタルと物理の融合: レゴビデオゲーム、映画、テーマパークの展開
  4. 教育市場への進出: STEM教育とプログラミング学習要素の強化
  5. 製品ラインの最適化: 収益性の低い製品の大胆な整理と核心回帰

成功の指標:

  • 売上高:2004年から2020年までに約5倍の成長
  • ブランド価値:世界で最も価値のあるおもちゃブランドに
  • レゴ映画シリーズの大ヒット(興行収入10億ドル超)
  • レゴアイデアプラットフォームでのユーザー提案製品化と成功

成功要因:

  • 「創造性の解放」という創業理念への回帰
  • 顧客との共創関係の構築
  • デジタルとフィジカルの最適融合
  • 大胆な事業再構築と戦略的な選択と集中

教訓:

  • 創業の理念・強みへの回帰がリ・ポジショニングの基盤となる
  • ユーザーコミュニティの力を活用した共創戦略の有効性
  • デジタルとフィジカルの最適な組み合わせによる新たな価値創造

成功事例9:シェル(石油メジャー→エネルギートランジション企業)

リ・ポジショニング前: 石油・ガスの探査・生産・販売を行う伝統的石油メジャー
リ・ポジショニング後: 多様なエネルギーソリューションを提供する総合エネルギー企業

背景:

  • 気候変動対策の世界的な要請(パリ協定など)
  • 株主アクティビズムと持続可能性への投資家圧力の高まり
  • 再生可能エネルギー技術の進化と競争力向上
  • 長期的な炭化水素需要減少の見通し

主要戦術:

  1. サステナビリティ転換戦術: 2050年ネットゼロカーボンへのコミットメント
  2. バリューチェーン再構築戦術: 風力・太陽光発電などへの投資拡大
  3. 製品属性強化戦術: 低炭素・クリーンエネルギー製品群の開発
  4. ブランドストーリー刷新戦術: 「エネルギートランジションのリーダー」としての位置づけ
  5. 組織再編: 部門横断的な低炭素事業ユニットの創設

成功の指標:

  • 再生可能エネルギー事業の急成長
  • ESG評価の改善
  • 機関投資家からの支持拡大
  • 新事業領域(電気自動車充電インフラなど)でのリーダーシップ確立

成功要因:

  • 市場・社会動向の先読みと早期の方向転換
  • 明確な長期ビジョンと段階的な実行計画
  • 既存ビジネスの収益を活用した新領域への投資
  • 経営トップの揺るぎないコミットメント

教訓:

  • 社会的要請や環境変化に先んじたリ・ポジショニングが持続的成長の鍵
  • 長期ビジョンと短中期の具体的行動計画の両立が重要
  • 外部からの批判や圧力を変革のドライバーに転換できる

成功事例10:ストライプ(決済プロセッサー→開発者向けフィナンシャルインフラストラクチャー)

リ・ポジショニング前: オンライン決済処理サービス
リ・ポジショニング後: インターネット上の包括的な金融インフラストラクチャー提供者

背景:

  • オンライン決済プロセッサー市場の競争激化
  • デジタルエコノミーの急速な拡大と多様化
  • スタートアップのグローバル展開ニーズの増大
  • フィンテック技術の進化と金融サービスのアンバンドリング

主要戦術:

  1. カテゴリー再定義戦術: 「決済代行」から「インターネットの経済レイヤー」へ
  2. 用途拡張戦術: 決済処理からビジネス設立・運営の総合支援へ
  3. バリューチェーン再構築戦術: バックエンド金融インフラ全体への展開
  4. 開発者体験の最適化: API設計とドキュメンテーションへの徹底的投資
  5. グローバル展開の加速: 越境EC支援とローカライズサービスの強化

成功の指標:

  • 企業評価額:950億ドル(2021年時点、非上場)
  • グローバル展開:40カ国以上で事業展開
  • 顧客基盤:数百万の企業がサービス利用
  • 製品ラインナップの拡大(Atlas、Issuing、Capital、Terminalなど)

成功要因:

  • 開発者を中心に据えた製品設計と意思決定
  • 「インターネット上のGDP拡大」という大きなビジョン
  • 高度に統合された製品エコシステムの構築
  • 顧客企業の成長に合わせたサービス拡張

教訓:

  • 顧客の進化する課題に合わせた継続的なリ・ポジショニングの重要性
  • 技術的卓越性と優れたユーザー体験がB2Bでも差別化要因となる
  • 明確な企業ミッションがリ・ポジショニングの一貫性を支える

失敗事例1:ノキア(携帯電話メーカー→スマートフォンメーカー)

リ・ポジショニング目標: 従来型携帯電話からスマートフォンへの転換
結果: 市場シェア急落と携帯電話事業の売却(Microsoftへ)

背景:

  • スマートフォン市場の急成長(iPhone登場・2007年)
  • オープンOSの台頭(Android)
  • タッチスクリーン技術の普及
  • アプリエコシステムの重要性向上

失敗の主因:

  1. 認識の遅れ: スマートフォン革命の破壊的影響力を過小評価
  2. ソフトウェア軽視: ハードウェア重視の思考からの脱却の遅れ
  3. 組織の硬直化: 既存成功モデルへの固執と内部政治
  4. 過剰な自信: 市場リーダーとしての過信
  5. 意思決定の遅延: 複数OS戦略(Symbian、MeeGo、Windows)の優柔不断

予兆とシグナル:

  • 2007年:iPhoneに対する経営陣の軽視的コメント
  • 2008年:タッチスクリーン対応の遅れ
  • 2009年:アプリ開発者の流出
  • 2010年:OSの方向性に関する内部対立の表面化

教訓:

  • 市場リーダーでも破壊的イノベーションへの対応を誤れば急速に衰退する
  • 技術変化の本質を見極め、自社の強みを再定義する必要性
  • 組織のサイロ化と政治的対立がリ・ポジショニングの大きな障壁となる
  • 複数の矛盾する戦略よりも、一貫した方向性と迅速な実行が重要

失敗事例2:コダック(フィルムメーカー→デジタルイメージング企業)

リ・ポジショニング目標: フィルム中心からデジタルイメージング企業への転換
結果: 2012年に破産申請、大幅な事業縮小

背景:

  • デジタルカメラ技術の普及(皮肉なことに初期のデジタルカメラ技術はコダック自身が開発)
  • フィルム需要の急速な減少
  • スマートフォンカメラの普及
  • 写真共有のデジタル化・ソーシャル化

失敗の主因:

  1. カニバリゼーションへの恐れ: コア事業を脅かす技術への消極的姿勢
  2. リソース配分の失敗: デジタル事業への不十分な投資
  3. 企業文化の硬直化: 「フィルム会社」としてのアイデンティティからの脱却失敗
  4. ビジネスモデルの再構築不全: サービス収益モデルへの転換遅れ
  5. 技術力と顧客理解のミスマッチ: 技術はあっても顧客価値創造への転換失敗

予兆とシグナル:

  • 1990年代:デジタルカメラの開発がありながら積極投資せず
  • 2001年:フィルム売上の急落開始
  • 2005年:デジタル事業の収益性問題の顕在化
  • 2007年:複数回にわたる大規模リストラの連続

教訓:

  • 自社の主力事業を脅かす可能性のある技術こそ、自ら主導すべき
  • 技術力だけでなく、変化するビジネスモデルへの適応が不可欠
  • 企業の歴史や成功体験が変革の障壁になりうる
  • リ・ポジショニングには早期の意思決定と十分なリソース投入が必要

失敗事例3:バーンズ&ノーブル(書店チェーン→デジタル読書企業)

リ・ポジショニング目標: 実店舗書店からデジタル書籍市場のリーダーへ
結果: デジタル戦略の失敗と市場地位の大幅後退

背景:

  • Amazonの台頭とオンライン書籍販売の急成長
  • Kindleの成功とe-book市場の拡大
  • 消費者の読書習慣のデジタル化
  • 実店舗の集客・収益性低下

失敗の主因:

  1. 遅すぎる対応: デジタル化への本格参入が競合より遅れる
  2. 一貫性の欠如: デジタル戦略とリアル店舗戦略の連携不足
  3. テクノロジー投資の問題: Nook e-readerの開発・マーケティングの不備
  4. 組織分断: デジタル部門と既存事業の対立
  5. 顧客体験設計の不足: 統合的な読書体験の提供不足

予兆とシグナル:

  • 2009年:Nook発表が競合に数年遅れる
  • 2011年:デジタル事業の収益性問題の表面化
  • 2013年:Nookの深刻な売上不振
  • 2014年:Nook部門の分社化と戦略の迷走

教訓:

  • デジタル変革は部分的な取り組みでは成功せず、全社的変革が必要
  • オンラインとオフラインの顧客体験を統合する視点の重要性
  • 競合よりも遅れてエントリーする場合、差別化要素が明確でなければ成功は困難
  • リ・ポジショニングには組織構造と人材戦略の見直しが不可欠

失敗事例4:GE(総合電機メーカー→デジタル産業企業)

リ・ポジショニング目標: 製造業からデジタル産業企業への転換
結果: 「GE Digital」戦略の失敗と企業価値の大幅下落

背景:

  • IoT(モノのインターネット)技術の進展
  • データ分析とAIの産業応用の可能性拡大
  • デジタルプラットフォーム企業の台頭
  • 伝統的産業のデジタル化の流れ

失敗の主因:

  1. 過度に野心的な目標: 実現可能性を超えた大規模変革の推進
  2. 焦点の拡散: 多角化された事業全体での同時変革の困難さ
  3. 文化的障壁: 製造業からソフトウェア企業への文化変革の困難さ
  4. 技術的課題: 「Predix」プラットフォームの技術的問題
  5. 短期的圧力: 株主からの短期的業績要求と長期変革の矛盾

予兆とシグナル:

  • 2015年:過度に楽観的な成長予測の発表
  • 2016年:Predixプラットフォームの技術的課題の顕在化
  • 2017年:GE Digitalへの投資対効果への疑問の高まり
  • 2018年:CEOの交代とデジタル戦略の見直し

教訓:

  • 段階的なリ・ポジショニングと現実的な目標設定の重要性
  • 技術力とビジネスモデルの両面での変革が必要
  • 既存事業の強みを活かしながらの漸進的変革が有効
  • 企業文化の変革には長期的視点と実質的な組織改革が不可欠

失敗事例5:WeWork(オフィスレンタル企業→テクノロジー企業)

リ・ポジショニング目標: 不動産サービス企業から「空間・コミュニティ・テクノロジー」企業へ
結果: IPO失敗、企業価値の急落、創業者の退任

背景:

  • シェアリングエコノミーの台頭
  • テクノロジー企業の高い市場評価
  • 柔軟なワークスタイルへの需要増加
  • ベンチャーキャピタル(特にソフトバンク)からの巨額資金調達

失敗の主因:

  1. 実態と乖離したポジショニング: 本質的にはオフィス賃貸業だがテクノロジー企業を標榜
  2. サステナビリティの欠如: 収益性よりも拡大を優先した事業モデル
  3. 過大評価: 「We」ブランドの過剰な拡張(WeLive、WeGrow等)
  4. ガバナンス問題: 創業者への権限集中と利益相反
  5. 市場現実との乖離: IPOプロセスで明らかになった財務的実態

予兆とシグナル:

  • 2018年:急速な事業拡大と財務指標の悪化
  • 2019年:IPO申請書類での巨額損失の開示
  • 2019年:企業評価額の大幅下方修正
  • 2019年:ガバナンス問題の公表とIPOの中止

教訓:

  • リ・ポジショニングは実体のある差別化に基づくべき
  • 持続可能なビジネスモデルなしのイメージ先行は長続きしない
  • 過度に野心的なブランド拡張は焦点の拡散を招く
  • 適切なガバナンスと透明性がリ・ポジショニングの信頼性を支える

総括:リ・ポジショニング成功の共通要因と失敗の教訓

成功の共通要因

  1. 危機意識と先見性
  • 環境変化の早期認識と積極的対応
  • 成功している時こそ変革に着手する勇気
  • 明確なビジョンと変革の必然性の理解
  1. 強みの再定義と活用
  • 既存の強みを新しい文脈で捉え直す能力
  • コア技術や資産の新たな応用可能性の探索
  • 歴史や伝統を活かしながらの革新
  1. 段階的かつ継続的な実行
  • 大きなビジョンと小さな成功の積み重ね
  • 十分なリソース投入と優先順位の明確化
  • 長期的コミットメントと忍耐力
  1. 組織と文化の変革
  • トップの強いリーダーシップと率先垂範
  • 組織全体の目的共有と意識改革
  • 新たなスキルセットの獲得と人材戦略
  1. 顧客中心と価値創造
  • 顧客ニーズの変化への敏感な対応
  • 製品特性から顧客体験全体への視点拡大
  • 技術と人間的価値の融合

失敗からの教訓

  1. 認識の遅れと過小評価
  • 市場変化の重要性を見誤る危険性
  • 成功体験による思考の硬直化
  • 既存ビジネスへの過度の執着
  1. 実行力と資源配分の不足
  • 言葉だけのリ・ポジショニングの限界
  • 不十分な投資とリソース配分
  • 長期的視点の欠如と短期的圧力への屈服
  1. 組織の抵抗と文化的障壁
  • 内部政治と部門間対立の阻害効果
  • 古い文化と新しい方向性の不一致
  • 人材とスキルのミスマッチ
  1. 一貫性と焦点の欠如
  • 多方向へのリソース分散
  • 矛盾する複数の戦略の並行
  • 頻繁な方向転換による混乱
  1. 実態を伴わない表面的変化
  • 実質的な変革なしのイメージ先行
  • ビジネスモデルの根本的見直しの不足
  • リスクとコストの過小評価

最終メッセージ:

リ・ポジショニングは単なるブランドイメージの刷新ではなく、企業の存在意義と価値創造の本質的な再定義です。成功するリ・ポジショニングは、市場環境の変化を敏感に察知し、自社の強みを新たな文脈で捉え直し、組織全体で一貫した変革を実行する総合的なプロセスです。外部環境の変化が加速する今日、リ・ポジショニングの能力は、すべての企業にとって生存と繁栄の鍵となる核心的能力といえるでしょう。


保存を推奨する理由: このリ・ポジショニング戦略マニュアルは、既存のブランドやサービスを市場環境の変化に合わせて再定義・再構築するための包括的な実践ガイドを提供します。事例分析と実践ツールを豊富に含み、クライアント企業の変革支援やブランド再構築コンサルティングに直接活用できる戦略的資産となります。

推奨保存先パス: /agency_knowledge/marketing_strategy/repositioning_strategy_practical_manual.md

保存ファイル名: repositioning_strategy_comprehensive_guide_v1.md

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